総合的な学習の時間で活用するための地域診断法WS実施マニュアル

総合的な学習の時間で活用するための地域診断法WS実施マニュアル

3.本マニュアルの概要と趣旨

地域診断法は、地域の有している「本質的な特徴」を明らかにすることができる手法である。「本質的」と言う意味は、地域の特徴を、例えば、「有名な神社がある」「農業が盛んな地域である」などの現時点で捉えることのできる特徴ではなく、その特徴を構成する「要素」とそれらの「つながり」を捉えることを意味する。なぜこの神社があるのか?、なぜこの神社がこの場所にあるのか?、なぜ人々はこの神社を信仰するのか?、そういった、なぜ?なぜ?という疑問を持つことで、つながりが見えてくる。そしてそのつながりは、おおよそ、地域の自然環境や気候風土、そこで育まれた人々の生活文化にたどり着く。そうした地域の環境等とそこに住まう人々の暮らしがどのようにつながっているかを理解し表現にまとめたものが地域の本質的な特徴なのである。

近年、超高齢社会、人口減少の状況から、地域のことは地域で、という地域自治の考えが定着しつつある。地域自治をするにしても、それぞれの地域の特徴を活かした活動や活性化が必要となる。かつての金太郎アメ的な活性化では、地域の独自性は生まれない。

地域診断法では、この本質的な特徴を明らかにするために、沢山の情報を収集し、それを整理して、つながりを考え、最後は地域の特徴を「キャッチフレーズ」(心に残る印象深い文句)で表現する。最後に出てくるキャッチフレーズは、「そんなのあたりまえ」「あぁそんなことわかっている」と思われるかもしれないが、そういう結果でも、そこに至るプロセスで、収集した情報を整理し、論拠を有したフレーズを構築することで、揺るぎない地域の特徴を捉えることができるのである。もう一つのポイントはフレーズに「○○地域の」という前置詞がつくことである。対象とする地域は、地球上で一つしかない。山の形、川の流れ、日の当たり方、雨の量、風に吹き方、どれをとっても、他の地域と全く同じことはありえない。したがって、地球上で唯一の「地域のキャッチフレーズ」が生まれるのである。特徴を考えていく際には、他の地域と何が違うのかな?という比較する視点も大切となる。

さて、なんだか大変そうだなぁと思うかもしれないが、ここで紹介する地域診断法(ワークショップ)は、地域住民と地域外の人間が協働して、1日で導くことが出来る非常に簡易な手法である。ただし、小学校高学年の児童生徒にとっては一気にやってしまっても消化不良になると考えられるので、地域の特徴を勉強すると言う意味で、少し時間をとってステップを踏みながら答えを探すことにしたいと思う。

この手法は、簡単に言うと「たくさんの情報を集めて、整理し、つながりを考える」という内容である。整理し、つながりを考える方法として「KJ法」を活用する。手順は、「きく・かたる」「みる・あるく」「はる・つなぐ」「未来をえがく」の4つのステップで構成されている。

「きく・かたる」では、地域の方を招いて児童生徒がヒアリングを行う。ヒアリング内容をメモし、メモした内容を整理して、聞いた内容から地域の特徴を整理する。「みる・あるく」では、地域外の人として大学生に参加してもらい、地域の方に案内してもらいながら地域をあるく。このまちあるきで知ったこと、発見したこと、気がついたことなどを大学生と一緒になって書き出し整理していく。この二つのステップで、地域に対しての多様な視点からの情報が収集される。そして、「はる・つなぐ」では、整理した内容をさらに整理して地域の特徴は何かを考え、最後の「未来をえがく」で地域の特徴を象徴する「キャッチフレーズ」を生み出す。

生み出されたキャッチフレーズは、突拍子もないものは出てこない。なぜなら、収集した情報に基づく内容となっているからである。これらから地域の本質的な特徴、あるべき姿が見えてくるのである。そしてこうした一連の作業を通じて、多様な方々と出逢い、共同作業を通じてコミュニケーション力が鍛えられるとともに、児童生徒には、情報を収集する聴く力、見る・感じるといった感性、つながりを考える創造的な思考力、答えを導く論理的な思考力、言語力、コミュニケーション力が培われていく。また、自分にとって地域がどのようになって欲しいのか、地域に対して自分たちが何をすべきなのか、を考えることで主体性を育む機会となり、「愛郷心」の醸成につながることが期待される。

 

4.総合的な学習の時間での実践

地域診断法WSは、「総合的な学習の時間」を中心に実施する。

平成29年3月に改訂された学習指導要領における「総合的な学習の時間」の内容を次頁以降に参考に記す。この内容の詳細な解説については「小学校学習指導要領解説 総合的な学習の時間編 (平成29年6月 文部科学省)」に記載されているので参照されたい。ここではその要点と、地域診断法WSの整合性について解説する。

「総合的な学習の時間」の趣旨と改訂の要点

総合的な学習の時間は「学校が地域や学校、児童生徒の実態等に応じて、教科等の枠を超えた横断的・総合的な学習とすることと同時に、探求的な学習や協働的な学習とすることが重要」「特に、探求的な学習を実現するために、「①課題の設定→②情報の収集→③整理・分析→④まとめ・表現」の探求のプロセスを明示し、学習活動を発展的に繰り返していくことを重視」し、その成果として「全国学力・学習状況調査の分析等において、総合的な学習の時間で探求プロセスを意識した学習活動に取り組んでいる児童生徒ほど各教科の正答率が高い傾向にあること、探求的な学習活動に取り組んでいる児童生徒の割合が増えていることなどが明らかになっている」とされている。この状況をふまえつつ改訂の要点としては、「総合的な学習の時間と各教科等との関連を明らかする」「学校全体で育てたい資質・能力に対応したカリキュラム・マネジメント」の必要性、「整理・分析」および「まとめ・表現」の充実、「一人一人の資質・能力の向上をより一層意識」することが指摘されている(引用:小学校学習指導要領解説 総合的な学習の時間編 (平成29年6月 文部科学省)p.6)。

地域診断法WSは、まさにこの探求のプロセスと整合したものである。地域の本質的な特徴は何か?という課題設定からはじまり、ヒアリングやまちあるきで情報を収集し、KJ法で整理・分析し、成果をまとめて、交流し、地域住民に向けての発表を行う。そして、一連の活動の中で探求のプロセスが「繰り返され」、グループで「協働して成果をつくり」上げていく仕組みが導入されていること、成果が大人に対しても説得力があるものであることが特徴的である。また、これまで実践された授業では、国語と連携して調査内容の報告書作成を行うなどが行われている。