健康まちづくりワークショップ

保健師の行う地域診断・地区診断の手法として、「健康まちづくりワークショップ」を紹介します。この手法は、保健師による地域への介入方法に「まちづくり」の視点を加えたものです。特に、少子高齢化、人口減少が進む日本の、都市郊外や農山村において効果があると思われます。ここでは、その考え方と手法、実践事例、効果を紹介します。

パンフレット「20190320健康まちづくりWS概要版」もご覧下さい。

「まちづくり」で健康に:一石3鳥

人口減少が進む中で、地域は様々な課題を抱え、その解決を模索しています。そうした中で、地域には、自らの地域資源を活かした、身の丈に合った地域活性化や持続可能性のある地域づくり、まちづくりの推進が求められています。一方で、まちづくりの基礎となるのは人材であり、人々の健康です。まちづくり活動をして身体を壊しては意味がありません。地域の資源を活かしたまちづくり活動をすることで、人々が健康を維持・増進できれば、住む人にとっても、地域にとっても、ひいては、管轄の行政、自治体にとっても良い影響をもたらすのではないでしょうか。

切り口としての「地域診断法」

健康まちづくりワークショップ手法の紹介の前に、その元となった「地域診断法」とそのワークショップ手法を説明しましょう。ここでいう地域診断法は、公衆衛生分野のものとは異なり、まちづくりの分野で実践されているものです。その根本的理念は「エコロジカルプランニング」すなわち、地域を生態系としてとらえる考え方です。私たちの住む地域は、大きな視点で見ると地球という環境に育まれた生態系の中に存在しています。その地域の山や川、風や雨に育まれた生物たちのなかに、私たち人間の営みがあります。そうした視点から地域を捉え直す手法が、まちづくりの分野における「地域診断法」です。この視点は、コミュニティ・アズ・パートナーの考え方や、1950年代の公衆衛生分野での地区診断でも類似の内容が述べられています。

1日で簡単に「地域診断法」

地域診断法は、地域を様々な側面「レイヤ」に分解してマトリックス上に整理し、その地域の特性を明らかにする手法です。しかしこの手法は時間と労力がかかるため、もっと簡易に、住民参加で実施できる手法として開発されたのが、「地域診断法ワークショップ(WS)」です。

地域診断法WSの原理はいたって簡単です。地域の情報を集めて、その「つながり」を考えることで地域の本質的な特性を見いだす形です。その実施にあたってのポイントは、住民に加え地域外の人を参加させること、2段階の情報収集を行うこと、フィッシュボーン状につながりを整理し特性を見いだすこと、の3点です。何かしらのワークショップを開催した経験があれば、ハンドブックを用いて実施可能です。

健康まちづくりワークショップ

この地域診断法WSに「健康」の側面をどのように融合できるのかを検討し、生まれたのが「健康まちづくりワークショップ」です。地域診断法WSの要点である、エコロジカルプランニングの理念等を活かしつつ、参加した住民に健康への意識が生まれる工夫を盛り込みました。具体的には、描いたビジョンと地域資源から「まちづくりのアクション」を描く際に、自らの地域の健康特性や、健康増進、予防介護など情報を保健師から習得し、地域資源を活かしたアクションと自らの健康とのつながりを考える場面を加えました。さらに、アクションの実施状況をチェックする仕組みを導入しました。この仕組みを導入することで、住民は、まちづくりと健康を関連づけて意識することができるようになります。

保健師のツールとして

この方法を用いて、保健師が参画するワークショップを開催しました。その結果、参画した保健師からは、地域の特性や住民の思いを知る方法として有用であることが、地域としては、まちづくり活動で住民が健康を意識するようになることが確認されました。保健師の地域介入のツールとして活用の可能性を示すことができました。一方で、実施するための課題としては、他部署との連携などの体制、保健師の経験や技量、まちづくりに対する住民意識の高さに左右されるとの指摘もありました。実際に想定される活用場面としては、保健師の地域への介入が行われているのであれば、その活動のプラスアルファとして活用したり、他部署で地域活性化を模索しているようであれば、その切り口として合同で開催したりする方法が考えられると思います。

ハンドブックは以下のリンクからダウンロードできます。活用いただく事は歓迎です。その際はご一報いただければ幸いです。

地域診断法ハンドブック健康まちづくり版